本コラムでもご紹介しましたように、公益目的取得財産残額(公益認定を取り消されたときに類似の事業を目的とする他の公益法人等に贈与すべき額)の算定に関連して、内閣府の「定期提出書類の手引き(公益法人編)」(以下「手引き」といいます。)が令和3年6月18日付けで改訂され、令和4年3月30日には、「公益法人制度等に関するよくある質問(FAQ)」(以下「FAQ」といいます。)の関連する項目の追加・修正も行われています。
これらの内閣府における改訂等への対応として、大阪府は、令和4年7月15日付けで、手引きの改訂に伴う事業報告等に係る提出書類の別表H(1)13欄の対応について、所管の公益法人への通知を行いました。手引きの改正内容と今般の大阪府からの通知内容は次のとおりです。
<手引きの改正内容>
手引きP.55の説明ⓕにて、別表H(1)13欄には下記(ア)から(ウ)の合計額を記載するように、説明文が変更されました。 (ア) 損益計算書内訳表の公益目的事業会計に計上された収益及び他会計振替額等 (イ)(ア)により算定される1欄の額がマイナスの場合には、1欄を0とするため (ウ)(ア)(イ)により算定される1欄の額が、別表C(2)の公益目的の3.から6. |
<大阪府からの通知内容>
・手引きP.55の説明ⓕの(ア)については、例年と変わりませんので、記載のとおりご対応ください。 ・手引き同(イ)(ウ)は、内容を反映させずに作成してください。 (令和3年度分の定期提出書類を作成する場合と同様に、1欄の額がマイナスになっていても問題ありません。) |
(注)下線は執筆者が追加。
FAQによると、内閣府は、1欄がマイナスになる場合、会計上は他会計振替により公益目的事業会計に振り替えていない法人においても、認定規則第26条第8号の「定款又は社員総会若しくは評議員会において、公益目的事業のために使用し、又は処分する旨を定めた額に相当する財産」に該当するものとして、公益目的事業財産の増加として捉えていると思われます。
しかし、内閣府公益法人メールマガジン第47号(平成30年5月23日発行)によりますと、「公益目的保有財産としてのリース資産を取得時に売買処理を行った場合には、リース債務の支払いが将来に渡るだけで、貸借対照表上に資産として計上されるのは通常の公益目的保有財産の取得と同じなので、収支相償の計算において剰余金の解消理由として認められます。」とあり、リース資産を公益目的保有財産として位置づけることが可能な旨、明記されています。
この点、公益目的保有財産としてのリース資産を取得した場合の公益目的取得残額の算定を簡単な設例で考えてみると、次のようになります。
<設例>
公益目的保有財産としてのリース資産を50取得した。公益目的事業の収益及び費用はいずれも500である。
項目 |
従来 |
改訂後 |
当該事業年度に増加した公益目的事業財産(14欄)A |
500 |
550 |
当該事業年度の公益目的事業費等(20欄)B |
550 |
550 |
当該事業年度末日の公益目的増減差額(1欄)C=A-B |
△50 |
0 |
当該事業年度末日における公益目的保有財産(21欄)D |
50 |
50 |
当該事業年度末日における公益目的取得財産残額(24欄)E=C+D |
0 |
50 |
(注)括弧内は別表H(1)の欄の番号。
改訂後は1欄がマイナスにならないように、13欄を50とするため、14欄は550となる。
設例のように、改訂後は、公益目的保有財産と同額の50が公益目的取得財産残額ということになりますが、これは負債(リース債務)を財源とするものであり、これを「公益認定を取り消されたときに類似の事業を目的とする他の公益法人等に贈与すべき額」とすることには違和感がありますし、そもそもリース取引は、外部からの資金調達であり、法人内の資金を他会計振替したものではないことから、認定法第26条第8号の「定款又は社員総会若しくは評議員会において、公益目的事業のために使用し、又は処分する旨を定めた額に相当する財産」に該当しないように思われます。
大阪府では手引きの記載と異なる取扱いを行う理由として、『「監督の基本的考え方」において、法令で明確に定められた要件に基づく監督を行うことを原則としていること』を挙げています。前述のリース資産については、内閣府の手引きの改訂が「法令で明確に定められた要件」を反映しているとは言い難い一例としてご説明いたしましたが、このほかにも慎重に検討すべき課題が多いと考えます。
今般の大阪府の通知は、内閣府の拙速な対応に一石を投じたものと考えられ、これを機に、内閣府においても、十分な検討と丁寧な説明が行われることを期待します。
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