内閣府は、令和3年6月18日に「定期提出書類の手引き(公益法人編)」の一部改訂を公表しました。今回の改訂箇所は、別表Hの公益目的取得財産残額に係る部分が該当しますが、従来の実務とは異なる考え方が取り入れられています。
まず、別表Hで計算する公益目的取得財産残額の概念についてですが、公益認定を取り消されたときに類似の事業を目的とする他の公益法人等に贈与すべき額のことで、以下の算式により計算することになっています。
【数式1】公益目的増減差額+公益目的保有財産=公益目的取得財産残額 |
そして、【数式1】のうち、公益目的増減差額とは公益に充てられるべき資金(流動資産)のことで、以下の算式により計算します。
【数式2】前事業年度末日の公益目的増減差額+当該事業年度に増加した公益目的事業財産 -当該事業年度の公益目的事業費等=当該事業年度末日の公益目的増減差額 |
従来の実務では、【数式2】において、「当該事業年度末日の公益目的増減差額」の計算結果がマイナスとなった場合にも、そのまま【数式1】に当てはめて公益目的取得財産残額を計算していましたが、今回の改訂では、【数式2】の計算結果がマイナスになることはないことが明記されました。
つまり、会計処理として他会計振替を行っていない場合であっても、公益目的増減差額がマイナスになる場合には、実態として、その差額について公益目的事業外から公益目的事業に資金を繰り入れたとする考え方を明確化したといえます。
それでは、具体的な数値例をもとに、改訂前後の公益目的取得財産残額の計算を比較してみましょう。なお、説明を単純化するために、「当該事業年度に増加した公益目的事業財産」は公益目的事業の収益(40)のみ、「当該事業年度の公益目的事業費等」を公益目的事業の費用(60)のみとします。また、「前事業年度末日の公益目的増減差額」は10、公益目的保有財産は前事業年度末日、当該事業年度末日ともに100とします。
項目 |
従来 |
改訂後 |
前事業年度末日の公益目的増減差額(2欄)A |
10 |
10 |
当該事業年度に増加した公益目的事業財産(14欄)B |
40 |
50 |
当該事業年度の公益目的事業費等(20欄)C |
60 |
60 |
当該事業年度末日の公益目的増減差額(1欄)D=A+B-C |
-10 |
0 |
当該事業年度末日における公益目的保有財産(21欄)E |
100 |
100 |
当該事業年度末日における公益目的取得財産残額(24欄)F=D+E |
90 |
100 |
(注)括弧内は別表H(1)の欄の番号
上記のように、改訂後は、「当該事業年度末日の公益目的増減差額」の計算結果がマイナスになる場合には、0となるまでの必要額(10)について、「当該事業年度に増加した公益目的事業財産」に加算することが明記されました。具体的には、別表H(1)の13欄「定款等の定めにより公益目的事業財産となった額」に10加算することになります。
さらに、公益目的の資産取得資金、特定費用準備資金、5号財産又は6号財産を保有している場合には、これらの期末帳簿価額の合計額よりも「当該事業年度末日の公益目的増減差額」が小さい場合には、当該合計額に達する額までの額に相当する額について、13欄に加算することとされています。
冒頭でご説明しましたように、公益目的取得財産残額は公益認定を取り消されたときに贈与すべき財産の額ですので、通常の運営を行っている限り、あまり影響はないと言えます。しかし、従来の考え方により、公益目的増減差額(場合によっては公益目的取得財産残額)がマイナスになっているような法人が、公益認定の取消しの申請を行い、一般法人になろうとする場合、贈与すべき財産の額が大きく変動する可能性もありますので、注意が必要です。
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